アオ1

2015/02/09


 

戦隊もので「青」と言う色は ナンバー2的な存在。

 

クールでいて、実は面倒見がいい。

赤色リーダーと言われる花形が表に立ってまとめて行くのに対して、

青色サブは、どこかで皆が頼りにするご意見番。

ゆるぎない信念と、俯瞰的に物事を見る力。

緑色や黄色程人懐っこく無いのに、信頼が厚い。

 

ギターを弾く姿に惚れてしまった甲斐君の布由子のイメージはそんな青いろヒーロー。


甲斐君を知ったのは、『お兄ちゃんのバンドの練習なんだけど、見に行かない?』って親友の知美からの誘ってもらったから。

何の気なしに見に行ったら一目ぼれ。

 

それ以来、知美のおかげで練習見に行ける時は、

そっと、でも実はドキドキしながら、毎回甲斐君をずっと目で追ってる。

 

 

「勉強ちゃんとしてるのか?」

 

「してるしてる」

 

知美はお兄ちゃんから、何か言われる度にいつも、すっごく真面目に真剣な顔で答える。

それが可愛くって、同姓ながら、知美の可愛さにキュンとなる。

 

ある時、軽く「いつもお兄ちゃんには素直なんだもん。知美可愛がられてるでしょ」

 

って言ったら

 

「だってうちの兄貴、約束した事してないと、すっごく怖いんだもん」

「バンドの練習見に来ていいのは、私がちゃんと学校の勉強して、さぼったりしないという条件だからさ」

 

「へー。親みたいなんだね」

ちょっと驚いて、思わずそう呟いた。

 

「うん。ウチ親が放任主義だからかな?何故か兄貴がすっごくうるさいの(笑)でもさ、

アツシさんの声ってすっごく沁みるから、私俄然張り切って、兄貴の言う事聞いてるんだ」

 

「そうなんだ。いいな。知美はお兄ちゃんがいつも一緒で」

 

「え。あげるよ。あんな怖い兄貴」

 

「怖くないよ。いつも真剣で、それでいて、ふわっと場を和ませるようなムードメーカー的な事言って、

すごくかっこいい。歌声だって素敵だし、あのすっと長い指でギター弾くのとか見れるだけで私舞い上がっちゃうのに」

 

「はいはい。男の趣味がちがってお互いよかったよね」

 

「兄貴は、止めておいた方がいいいよ。ふーちゃんは兄貴のホントの怖い顔知らないから、知らないままの方が幸せだし、夢壊すような事は

しないけど、マジで止めておいた方がいいよ」

 

 

「なんでー。怖いのいいじゃん。担任の八木がいつも言ってるじゃん。大人になったら誰も叱ってくれないぞ。って。それをちゃんと

叱ってくれるなんて、憧れちゃう」

 

「・・・」

 

「何言っても駄目だ(笑)恋は盲目だね」

 

初めて知美に連れて行ってもらった時から、私は知美のお兄ちゃん、俊也さん一筋。

 

ライブはタバコとお酒にまみれてるから、禁止って言われて、本番見た事無いのが残念だけど、

その代わり、練習してる風景はこうして、たまーに一緒に見せてもらえるようになって、

ふとした会話とか、耳ダンボにして聞いてると

優しい、思いやりある性格に

ますます、甲斐君に夢中になって行った。

 

ボーカルのアツシさんが『甲斐君』っていうから、あだ名みたいに皆そう呼んでいて、

私は年下だけど「甲斐君」って皆と一緒になって呼んでる。”くん”って言えるのが親近感なんだもん。

 

 

「だから、お兄ちゃんは止めておいた方がいいってば。あの人、悪さすると私の事容赦なくお仕置きするような人なんだよ?」

 

お仕置き・・・って?

 

「普段からちょっと怖いでしょ?あの人」

 

「ううん?全然?」

 

「もう。叱られた事ないからだよ。私なんて、兄貴に怒られるような事が無いようにって細心の注意払って、

練習の場に顔だしてるっていうのに。もう」

 

「厳しい事言ってたりするけど、それって上手くなるためだし、そういう真剣な所がかっこいいじゃん」

 

「駄目だ。全く会話がかみ合わない」

 

「お兄ちゃんがダメって言った事したら、泣いて反省するまで、みっちりお説教なんだから」

 

「私だって叱られたい。いいな知美は」

 

「叱られたいなんて、そんなことあるわけけないでしょ!もう」

 

「だって、知美、愛されてる。大切にされてるし、甘えさせてもらってるもん。いいなあ」

 

「何言ってもだめだ・・・」

 

「でも、私はいかないからね。ライブ。来て良いって言われてないから」

 

「わかった」

 

「私一人でも行くから」

 

「兄貴には見つからないようにね。それに、私は止めたからね」

 

 

「うん。知美は巻きこまないから安心して」

 

「アツシさんの事、レポるからね♪」

 

「え?ほんと!」

 

「いいな。それはちょっと羨ましい」

 

「知美もだからこっそり来たらいいのに」

 

「いい。私そんな怖い事できない」

 

「バレンタインなのにーーー」

 

「いい。まじで兄貴怖いの。私」

 

 

知美は決して首を縦に振らなかったけれど、そんなに甲斐君から大切にされてるのかと思うと羨ましかった。

 

ふゆこ、甲斐君の事が好きなのに。

ふゆこの青レンジャー。ふゆこだけを守ってよ。

 

うんと時間をかけて服を選んで、うっすらメイクもして、髪の毛が決まるまでに、さらに時間をかけて

いざ!

女子高生の本気をなめてもらっては困る。

一人だって、ライブハウスに行くんだから。

好きな人のためなら、初めての事だって、なんのその。

 

女子の行動力をなめんなって事だもん。

 

ちょっと緊張しながら、

入口でワンドリンク付きの入場券を買って中に入ると、

仕組みがわからず、その場に立ち尽くす。

知り合いもいないしな。どこに座ったらいいんだろう?

入口付近で、身動き取れないでいたら

肩にそっと手が。

なに!!

 

恐怖にキャっと声を出しそうになりながら、固まったら

「ふーちゃん?」

 

という声が。

 

まさか。

 

聞きなれた、低い、そして優しい声。

 

「なんでいるの?」

 

それはこっちが聞きたい。

 

「外に出よう」

 

入口からまた外へと逆もどり。

 

「俺、17時から出番だから、時間あんまりないんだけどさ」

 

「知ってます。甲斐君見に来たんだもん」

 

あ。いっちゃった。

 

「ん?」

 

「ライブハウス来ていいって、言ってないよ?」

 

「知ってます」

 

「知ってて何で来たの?」

 

「見たかったから」

 

ふー。

 

困ったな。

バックヤードは、客席がモニターで見れるようになっていて、

ふと何気にみた画面にふーちゃんが写っていたから、どうしたのかと思って声をかけてみたら、

言いつけ守れずに見に来ただと?

 

知美なら、俺に見つかった時点で、「帰ります」と自ら言えるくらいに躾けてあるが、

今ふーちゃんに帰れって言った所で、さらに隠れてなんかされても困るしな。

 

「知美は?」

 

「知美は、誘ったけど、甲斐君が駄目って言う事はしないって言われた」

 

「俺は、知美にも、ふーちゃんにも駄目って言ったつもりだけど、なんで約束守れないの?」

 

 

「だって・・・」

 

「バレンタインだから」

 

「チョコレート渡したかったから」

 

 

 

「ここでじゃなくてもいいよね?」

 

「今日渡したかったから」

 

ああ。私、バカな女みたいにチョコレートを繰り返してる。チョコは単なるこじつけで、

甲斐君の舞台がどうしてもみたかったんだよ。何故それが言えない??頑張れ私!

 

「来ちゃ、だめだった?」

 

「駄目だね。ライブは高校生禁止」

 

「まあ、入場料も払ったんだから、舞台は見て行ってよ。バレンタインだからそれ位は大目に見る。

その代わり、今度うちにおいで。この事はキチンと改めて話そう」

 

女子的には、”話そう”だなんて最高の展開。

やった!

 

「話しっていうか、お仕置きするからな」

 

お仕置きって・・・? 知美が話してたやつ?

言いつけは守らなかったけど、ちょっと叱られる位の代償なんて、たいしたこと無いよね。

知美はお兄ちゃんが怒ると怖いって言ってたけど、私はその話を聞く度に羨ましかった。

 

全力でちゃんと叱ってくれるなんて、愛情じゃん。

 

「ライブは楽しんでいって」

 

でた!笑顔の甲斐君。もう、めちゃめちゃかっこいい。私だけに話しかけてくれた。

最高に幸せ。

知美には何故分からないの?この優しさとカッコ良さが。

くっきりとした二重につぶらな大きな黒目。背は高いし、ギターはうまいし、男気があるのに、優しくて、気配りだって相当なもの。

私いつも見てるから知ってるもん。

 

その上、たまにしか見せない、このお日様スマイル見てドキドキしない子なんて

いないよね。

 

 

ふーちゃんの、百面相は可愛いけど、まったく反省の色は無いな。

どうすっかな。がっつりお尻叩いて痛い思いして反省させるか、お説教で泣くまで反省言わせ続けるか。


ライブを見たいと言ってもらうのは、嬉しいけれど、

入り浸る様な事になってでもしたら、俺が自分の事を許せなくなる。

高校生が来るような場所では、やっぱり無い。

 

タバコも、お酒もありで盛り上がって行くし、こっちが勝手に心配になるから、

だからこそ、見に来ない様に、暴走しないようにあれほど禁止だと言ってあったのに。

 

ライブ見ていいと言ったら、笑顔で一杯になって、ちょっとこのままだと、まずいと思って

話しがあると言ったら、全然懲りずにニコニコしてるから、お仕置き宣言したら、流石にちょとだけシュンとはなったけど、

あんまり分かってないだろうな。

 

甲斐君はやさしい。

私の為に前の方に空いてた席を見つけてくれた。

「ウーロン茶な」と好みも聞かず、有無を言わさずグラスを置くと、出番だからと

すっと楽屋に消えて行った。

「終わったら、真直ぐ家に帰る事。約束な?」

 

「うん♪」

 

ちょっと周りがサワサワってなったのを感じながら、

私は前を真直ぐに、甲斐君が出て来る事だけに集中した。マスカラで満足いくカールを保っているはずの

まつ毛をパサパサ言わせて、一瞬たりとも甲斐君を見逃さない準備をした。

 

 

ファンが多いのは知ってる。

 

楽屋に消えて行く時も、『甲斐君』『かい~』という声が聞こえてたもん。

 

それでも、このウーロン茶は私の為に甲斐君が用意してくれた。

特別扱いしてもらった事を支えに、始まるまでの時間、固唾をのんで待った。

 

 

甲斐君は、舞台ではより一層輝いていた。

少年のように振る舞い、タイミングを合わせ、ボーカルのアツシさんはいつも以上に伸びやかで、メンバー皆が楽しそうに演奏してる。

 

そして、いつもはハモリの所の短い場面しか見た事無かったのに、甲斐君が一曲歌った。


バレンタインのサプライズ

その声を聞いた時、涙がこぼれた。

 

じんわりと、優しく、深く響く声。

 

それは私の大好きな歌のカバーだった。

 

涙がポロポロこぼれてる私に甲斐君気がついたみたいで、視線を時々送ってくれた。

 

欧米ではバレンタインは男性が女性に優しくする日だから。

日頃の感謝を込めてという事らしい。歌う前にちょっと照れながら、話す甲斐君。

 

練習では見せてくれないなんて。

ライブにこれからも来たくなっちゃう。


終わった後、ウオータープルーフのマスカラにして、本当に良かったと思いながら、

帰ろうとしたら、電話が鳴った。

 

知らない番号だったけれど、もしかして?と思ってでると、やっぱり甲斐君だった。

 

「気をつけて帰れな」

 

「素敵でした」

 

「ありがと」

 

短い会話だったけれど、私は幸せ気分で、知美に報告。

 

「兄貴、怒ってたよー。ふゆこの番号聞かれて、伝えたけど、大丈夫だった?」

 

「今度会ったらお仕置きだって」

 

「げ。ふゆこ、軽いく言うけど、ごめん、私聞かなかった事にしてもいい?

それ、怖すぎ」

 

そういって、お仕置きがどんなものか私には全く想像もつかなかったけれど、お尻ペンってされる位、

今日の代償としては痛くもかゆくも無い!

 

それほどに幸せで、最高の気分だった。

 

知美もびびってないで、来ればよかったのに。